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仕事の人間関係がつらいあなたへ【長編コラム】

川上 義之

臨床心理士 / 公認心理師 ー 新宿四谷心理カウンセリングルーム(東京・四谷)

仕事のことを考えると胃が重く感じる。特定の人の名前が出ると身体が強張る。社内連絡板を開くのが怖くなる。仕事そのものが嫌なわけではないのに職場の同僚や上司のことが頭に浮かぶと会社に行く気持ちがしぼんでしまう。

仕事における人間関係はある意味で業務の一部と考えることができます。それは業務上のやりとりをするからというだけでなく、自分が適応していく職場環境の一部に人間関係があるからです。人間関係がうまくいかないと感じる時、それはあなたの問題ではなく、職場環境に一因があるかもしれません。

このコラムでは、仕事の人間関係がつらくなる仕組みを整理したうえで、今日から試せる負担の減らし方、相談先の選び方、そして異動・休職・転職といった大きな判断をどう考えるかについて考えていきます。読み終えたときに、「次にやること」がひとつでも見つかれば幸いです。 

仕事の人間関係がつらいと感じるのは珍しくない

厚生労働省が毎年発表している労働安全衛生調査では、年齢層によるばらつきもありますが、仕事に関する強い不安やストレスを感じる労働者が約8割に上ります。その中でも、30%前後の人が職場での人間関係にストレスを感じているという調査結果が出ています。多かれ少なかれ人との関係にストレスを感じることは当然ありますし、人間関係がつらいと感じることは対人関係スキルや社会人としての適正が不足しているからではありません。

心理士としてご相談を伺う中でも職場における人間関係について悩んでいる人は少なくありません。トラブルを抱えていたら悩んでしまうことはもちろんですが、そうでなくとも同僚や上司への接し方で悩むこともありますし、悩みがあっても打ち明けられずに一人で抱えてしまうこともあります。

人間関係がつらいと感じても人に話しづらい理由のひとつとして、「他の人は問題なくこなしている」ように見えることがあります。他の人が普通にできていることをつらいと感じてしまうのは自分に問題があるからじゃないか、そんなふうに考えてしまうとつらさを言い出すことは難しくなります。

ただ、人間関係は当人同士の相性や職場の構造によって決まります。この場合の構造とは、たとえば社内の雰囲気や人員配置、それぞれがおかれた立場などです。人間関係の調整に個人が何もできないわけではないですが、意外とできることの幅は狭いものです。まずは自分のおかれた状況を客観視することから始めてみましょう。

仕事の人間関係がつらくなる主な原因

人間関係のつらさとひとことで言ってもその内容は人によって様々です。五里霧中の状態では改善につなげていくことは難しいので、まずは自分が感じるつらさについて考えてみることが重要です。

上司・同僚・部下・職場風土のどこがつらいのか

仕事における人間関係は上司、同僚、部下との関係があり、また職場風土は職場の人間関係に影響を与えます。それぞれの特徴を考えてみましょう。

仕事において上司は部下を評価し仕事の指示を出す立場であり、部下として逃げにくさがつきまといます。不可解な評価や理不尽な指示、感情的な対応などがあっても、立場の非対称性のために関係の調整がしづらいという特徴があります。

同僚は一緒に仕事をすることが多い分、その接触の多さが負担になることがあります。業務を離れた時のちょっとした雑談に交ざれないとか、協力を求めても断られたり素っ気ない態度をとられたりすることできつく感じることがあります。立場上の違いはないため、気になっても言えない自分に問題がある、と自責的になりやすい相手でもあります。

上司 – 部下関係は上司との関係が注目されがちですが、部下との関係でもつらさを抱えることはあり得ます。部下に対する業務の指導が難しい、言い過ぎるとハラスメントになるのではないかと不安になるなどが人間関係のつらさにつながります。また、管理職は相談できる相手を見つけられず孤立してしまうことも少なくありません。

職場風土はなんとなく感じるけれどそれを口にできない、いわゆる空気感です。職場の誰も定時に帰らず遅くまで残業している、ミスをしたらきつく叱責されて当たり前、本音を言えば叩かれそうな雰囲気など、こうした職場風土は個人でどうにかできないものです。

自分が感じているつらさを書き出してみて、それがどこに由来しているか振り分けてみると、特につらさを感じやすいポイントを見つけることができるかもしれません。

価値観・立場・評価のズレが摩擦を生む理由

人間関係が悪化しているように感じられる時は相手に悪意があるように感じられるものです。ただ、人間関係で摩擦が起こっている原因の多くは当事者の間でなんらかのズレが生じていることが多いです。

たとえば、仕事の進め方でスピードを重視する人もいれば丁寧さを重視する人もいます。前者が後者を見れば「仕事が遅い」と感じるかもしれませんし、後者が前者を見れば「仕事が雑」と感じるかもしれません。

価値観、立場、評価。ズレが生じる可能性は様々なところにありますし、どんな場所でも起こり得ます。ズレが人間関係の問題につながることが多いのは相手が自分を否定しているように感じられた時です。ズレ自体はそれぞれ意見ややり方が異なるというだけなのですが、そこに正しい間違っているなどの価値判断が加わると相手が自分を認めていないといった思いが起こり、相手に対する態度が棘を含んだり余所余所しくなったりします。一方の態度が悪化すると他方の態度へ影響し、それが関係悪化のスパイラルになっていきます。

コミュニケーション不足で誤解が増える仕組み

人は欠けている情報がある時それを想像で補おうとします。また、そうした想像は気分状態の影響を受けやすく、たとえば疲れていたりイライラしていたりするとネガティブな方向に傾きがちです。

送ったメールの返信がなかなか来ない時、何故返信がないのかは相手の状況などを確認してみないと本来は分かりません。このようなネガティブな気分状態になっていると、確認しないままに相手が自分のことを「怒っている」「嫌っている」「軽んじている」など想像してしまうことがあります。

そうした想像を抱えたまま相手と接する機会をもつと、疑心が態度に現れて振る舞いがぎこちなくなってしまうことがありますし、ぎこちない態度に接した相手も同じようにぎこちなくなってしまうと思います。そうすると想像したことは事実だったと考えるようになり、誤解が誤解を生み出す悪循環に陥ってしまいます。

現代の職場で起きやすいすれ違い

上で見たように価値観、立場、評価などはズレが生じやすいポイントになりますが、近年では働く環境の変化もコミュニケーションのすれ違いが起こりやすい要因になっています。

①在宅勤務 
一時期に比べると出社を必須とする会社も再度増えてきていますが、それでも業種によっては勤務日のほとんどが在宅勤務という会社もありますし、在宅勤務を希望する人も増えたと思います。在宅という勤務形態は雑談の機会を持ちにくく、やりとりは用件のみに終始しがちです。そうすると互いの人となりを知ることが少なくなり、誤解が生じやすく解けにくくなります。

②テキストコミュニケーションの増加 
在宅勤務とも重なりますが、今は直接顔を合わせずともやりとりを可能にする手段が複数あります。その中でもテキストチャットは効率的なやりとりが可能ですが、同時に相手の意図や雰囲気は分かりづらいものとなり、テキストのみのやりとりは発信者と受信者でズレの生じやすい手段になります。

③多様な雇用形態と世代の混在 
現代の仕事では正社員、契約社員、派遣、業務委託などいくつかの雇用形態があり、それぞれ責任の範囲、もっている情報が異なります。職掌を分けることは業務内容が広がった結果ではあるのですが、「仕事を任せてもらえない」「重要な情報を伝えてもらえない」という感覚は互いの認識の齟齬につながる原因になり得ます。

④ハラスメントに対する意識の高まり 
ガバナンスやコンプライアンスが重視されるようになったこと自体は望ましい変化なのですが、場合によってはそれが「これを言えば指摘を受けるかもしれない」という委縮を生み、業務上必要なフィードバックを控えてしまうことにつながっているケースもあります。

相性の問題とハラスメントの境界線を見極める

相性の問題なのかハラスメントなのかの境界は本来曖昧なものなので第三者の意見が必要になります。ただ、つらい状況が続き一人で抱え込むようになってしまうと誰かに意見を聞くことが難しくなってひたすら我慢する、あるいはハラスメントだという考えから離れられなくなってしまうことがあります。

精神状態が不安定になると人は極端な考えに至りやすくなります。一人では判断の難しい事柄に対しても、なんとか自分で答えを見つけようとしてしまうのです。極端な考えは実際の状況から離れてしまうことが多く、そうすると自分の認識と周囲の認識との間にギャップが生じてしまいます。境界を見極める際には人に相談しながら考えることがより望ましいです。

相性が悪いだけのケース

相性の問題はどちらか一方が悪いというものではなく、当人同士の組み合わせがかみ合いにくい状態を指します。スピーディに進めたい人とゆっくりでも丁寧に進めたい人がかみ合わないというのはイメージしやすいと思います。業務との兼ね合いはありますが、これはその人の好みや性質と言えるもので、正しい間違っているという問題とは異なります。

相性の問題は白黒つけられる事柄ではないので、基本的には距離感の調整が必要になります。関わる頻度を減らす、担当業務を分ける、間に人を挟むなど、接点のあり方を変えることで相性問題は和らぐことがあります。

相談や記録が必要なケース

人と人が接する以上相性の問題は切り離せないですが、起こっている状況によっては相性の問題として片づけることが不適切なケースもあります。

たとえば、特定の人から繰り返される攻撃的な言動、人格を否定するような発言、大勢の人に見られた状況での過度の叱責、過大または過小な仕事の割り当て、断れない立場を利用した要求など。こうした状況が何度も続くようであれば、それは我慢するようなことではなく、ハラスメントとして対処が必要なことになります。

苦手意識があるからといって攻撃的、否定的な言動が許されるわけではありませんし、立場を利用したことであれば距離を置くことが難しい場合もあります。こうしたケースでは我慢して解決することはほぼないので、記録を取って相談することが大事になります。

相談前に整理しておく記録項目

社内コンプライアンス窓口や外部の専門家に相談する際、記憶を頼りに話をするとつらさは伝わっても事実が伝わりにくくなります。メールやチャットのログ、会話の録音など、形として第三者に伝えられる記録を残しておくと事実を伝えやすくなります。

記録すべき内容は、日時、場所、誰が何を言った・したか、その場に誰がいたか、自分が感じたこととその影響などです。こうした記録は淡々としたものになるのでつらさは伝わりづらいですが、事実関係は伝わりやすくなります。

記録は必ずしも第三者に伝えるだけのものとは限りません。記録を残していくと一定のパターンが見えてくることがあります。そうしたパターンの発見は自分の感じていることを裏付ける手掛かりになります。自分のために記録を残すことも大事なことです。

緊急度が高いサイン

相性かハラスメントかの見極めや記録を残すことは相応に時間のかかることです。ただ、状況次第ではそうしたことに時間をかける余裕がないこともあるため、そうした場合には早急に社内窓口、労働局、医療機関等へつながってください。

身体的な暴力や暴力をほのめかす言動、辞めろ・代わりはいくらでもいるといった退職を強要する言葉、繰り返される長時間に渡る叱責、身体的不調や不眠などの症状、「消えてしまいたい」といった思いがよぎることなど。

上記の状態・状況にある時は職場の問題以前に安全が脅かされている状況なので、安全の確保が優先される必要があります。こうした状況ではためらわずに相談窓口や医療機関を頼ってください。

限界サインを見逃さない

つらい状況が続いていると次第にその状況に対する慣れが生じてきます。慣れとはつらさがなくなるということではなく、我慢することが当たり前になっている、麻痺してしまっている状態です。

傍から見れば心身に不調が現れていることが明らかなのに、本人はそうした不調に無頓着になっていることがあります。これは慣れによって自分自身の変化に気づかなくなってしまっているために起こります。

心に出るサイン

以前は楽しんでいた趣味などの活動を楽しめなくなる、ふとした時に涙が止まらなくなるが何故泣いているのか分からない、身近な人とぶつかってしまうことが増えた、休みの日でも仕事のことが頭から離れないなど。

心のサインは気分の問題、一過性の問題として流されがちです。気分が良くなれば以前のように行動できるようになる、と考えるかもしれません。ただ、心が疲弊すれば回復力も落ちてしまいます。最初は気分の問題だった事柄も気づいたらある種の症状になっていたということは少なくないと思います。

体に出るサイン

体と心は連動しているので心理的なストレスの影響が体に現れることも珍しくありません。睡眠や食欲の不調、首や肩のコリ・痛み、腹痛や吐き気などはよく見られるものです。

ストレスに起因する身体的な不調は、医療機関で検査をしても問題が見つからないことも少なくありません。そうすると「気のせい」「考えすぎ」と片づけてしまいがちですが、身体的な症状はつらさを表すサインと捉えた方が適切なこともあります。体のサインが特定の場所・時間に現れるなら仕事との関連を考えた方がいいかもしれません。

行動に出るサイン

つらさが続いているサインは行動面の変化としても現れることがあります。

遅刻・欠勤が増える、同じ作業をしていても今までよりも時間がかかる、集中できず同じミスを繰り返してしまう、人と話す気分になれず一人で行動するようになる、身だしなみに気を配ることが難しくなるなど。

行動面の変化は周囲から見えるものなので、指摘を受けることもありますし、それでなんとかしようとしてできずに自分を責めてしまうこともあります。ただ、これは意識の持ち方の問題ではなく、仕事をするためのエネルギーが少なくなっているために起こっていることかもしれません。

受診や休養を考える目安

ひとつの目安としては各種のサインが二週間以上続いているなら専門家に相談する段階だと考えていいと思います。眠れず食欲もない、朝起き上がることが難しい、仕事に行くことを考えると体が動かなくなる、このような状態の時は「頑張りが足りない」のではなく、そもそも「頑張ることができない」状態、心身がこれ以上の負荷に耐えられない状態になっています。

医療機関を受診することを大げさと思うこともあると思いますし、抵抗感をもつ人もいるかもしれません。ただ、ケアは早い方が回復も早いことが多いです。心療内科や精神科はハードルが高いと感じれば、かかりつけの内科でも体調の相談は可能です。受診することをためらう気持ちも、もしかしたら心のサインのひとつかもしれません。

今日からできる負担の減らし方

関係の問題である以上、自分だけが対処をしても解決につながることは少ないですが、自分の側で調整することで多少なりとも負担が和らぐことはあります。少しでも負担が和らげば考える余裕が生まれるかもしれませんし、その状態の方がよりバランスのとれた判断ができると思います。

仕事の場と割り切って距離感を整える

仕事であっても人間関係が良好な方が望ましいことは間違いありません。ただ、それが「良好な人間関係を築けるはず」とか「良好な人間関係を築かなければならない」となってしまうと自分を追い詰める結果になってしまいがちです。

働く人それぞれに個人的な目標や目的はあると思いますが、職場で共有される目標のひとつは会社から課された仕事を問題なく回すことです。人間関係の合う合わないはありつつも、それぞれの業務をこなすことを優先する場所と割り切ってしまうこともひとつだと思います。あくまで仕事をしに来ているのであって人間関係は付帯的なものと考えてしまうことです。

ただ、そうは言っても感情が絡むことを割り切るのは難しいことで、頭では分かっているけれども、という思いは誰しも抱くものです。割り切れない背景は人それぞれです。過去に人との関係が切れてしまった経験があれば仕事だからと割り切ることは難しいですし、ビジネスライクな関係性が冷たく感じてしまってどうしても合わないという場合もやはり割り切ることは難しくなります。こればかりは個人のもつ価値観や性格が関係するので一朝一夕では対処しがたいものだと思います。

苦手な相手と最低限だけ関わる方法

苦手意識をもつ相手に対して態度が固くなってしまうのは仕方ない事ではありますが、そうした態度がまた相手との関係の悪化につながってしまいます。関わりの避けられない相手とは接点を調整することが有効です。

①やりとりの方法を変える
面と向かった口頭でのやりとりは苦手意識の有無に関わらず多かれ少なかれ緊張を感じるものですし、それが苦手な相手ならなおさらでしょう。その場合はできるだけメールやチャットでのやりとりに変えてみるといいです。形として残ることも言った言わないの負担を避けることに役立ちます。

②一対一の状況を避ける
二人で話をするよりも、間に第三者が入ることでやりとりがスムースになることも少なくありません。たとえば「念のため打ち合わせ内容を共有するために同席してほしい」と伝えることで、業務上必要なこととして定義することもできます。

③相手の言動に対する反応を少なくする
強い言い方をされた時などに動揺した反応をすると、相手から同様の言い方をされることが増えることがあります。「承知しました」「確認します」など内容だけを受け取るような返し方を決めておくことで感情を揺さぶられることが減ると思います。

報連相と伝え方を少し変える

先にも取り上げたように、認識のズレや誤解は欠けた情報を想像で補ってしまうことから生じることが多いです。伝え方を変えることでそうしたギャップを埋め摩擦が起こることを回避できることが少なくありません。

①結論から伝える
伝える事柄の背景から話し始めると相手は何の話か分からず身構えてしまいます。最初に「〇〇についてご相談させてください」と何の話をしたいのか示しておくと相手の受け取り方も違ったものになります。

②主語を「私」にする
情報伝達がうまくいかなかった際に、「あなたに教えてもらえなかったので次回は共有をお願いします」という伝え方は相手を責める形になってしまい、相手の態度を固くしてしまう一因になります。「私は把握できていなかったので次回は共有をお願いします」といった伝え方は事実と要望だけを伝える形になります。両者とも情報伝達のミスとその訂正を伝えていますが、「私」を主語にすることで相手にはより受け取りやすい言い方になります。

③確認を先延ばしにしない
受けた指示が常に明快で分かりやすいものとは限りません。曖昧で何をしたらいいのかよく分からないこともあります。指示が曖昧だと感じた時にはその都度「〇〇という理解で間違いないですか?」と確認しておくことで、後々ズレや摩擦の原因になってしまうことを防ぐことにつながります。

仕事のストレスをその日のうちに下ろす

ストレスは時間の経過で少しずつ薄れていくものではありますが、ショックを受けるほどの強いストレスは相応に時間が必要ですし、繰り返されるストレスは消化しきれず積み重なってしまいます。そのため意識的にストレスをその日のうち下ろすことを習慣づけておくことが大切です。

①切り替えの合図をつくる
短時間でも散歩をして景色を眺める、仕事着とは別の服を用意して着替える、仕事終わりの決まった音楽を聴くなど。どんなことでもいいと思いますが、もう仕事は終わりという区切り、切り替えを身体に覚え込ませることが重要です。

②出来事を書き出してみる
特に強いストレスがあった時には切り替えがうまくいかないこともあります。そういう時には考えてしまうことを無理に止めようとするより、事実と感想に分けて書き出してみると反芻が止まることがあります。上記した記録として残してもいいと思います。

③睡眠を優先する
仕事後にやりたいことがあると睡眠時間を削ってやってしまうこともあります。ただ、ストレスが時間経過で薄れることに睡眠は大きく関係しています。十分な睡眠は心身の回復のために必要ですし、夢をみることはストレス耐性の向上につながるとする説もあります。入眠前のスマホ操作を控えたり、入浴タイミングを調整したりなど、取り組めることから始めてみるといいと思います。

飲酒もストレス解消に用いられることがありますが、麻酔のようなもので、楽になるというより麻痺しているという捉え方が適当だと思います。飲んではいけないわけではないですが、量が増えていると感じた時は飲酒自体を相談した方がいいことと考えてください。

一人で抱え込まないための相談先と伝え方

つらさが続いている時、「相談するほどのことじゃない」と考える人は珍しくありません。大ごとにしたくない、自分でなんとかできるなど、理由は様々です。ただ、相談は対処できなくなったからするというよりも、状況を整理して自分がより判断しやすくするためにすることと捉えることができます。

社内で相談するなら誰が適切か

候補になるのは、直属ではない上司、人事・総務、社内の相談窓口、産業医・保健師、従業員の労働組合です。

相談先を選ぶ基準は「状況を動かすことができるかどうか」と「伝えた秘密が守られるかどうか」の二点です。話しやすさで選ぶと話を聞いて共感してくれるかもしれませんが、状況を動かす権限は持っていないかもしれません。また、権限を持っていても秘密が守られるか不安があれば産業医や外部の相談窓口が安心です。

誰かに話をしたいと思った時、気持ちを聞いて支えてくれることと、話を聞いて状況を動かしてもらう相談を分けて考えると、誰に何を話すのか整理しやすいと思います。

社外で使える公的相談窓口

社内の相談がしづらい場合には外部の公的な窓口を利用できます。いずれも無料で、匿名での相談が可能なところもあります。

・総合労働相談コーナー:ハラスメント、退職強要、労働条件全般
・こころの耳:働く人のメンタルヘルス。電話・SNS・メールで相談可能
・労働条件相談ほっとライン:休日対応、多言語対応
・みんなの人権110番:人権侵害にあたる言動・行動
・産業保健総合支援センター:職場のメンタルヘルスに関する相談
・精神保健福祉センター:心の健康全般

心身の不調があるときの相談先

限界のサインが出ている場合には、やはり医療機関の優先度が高くなります。精神的なストレスが強い場合には心療内科・精神科が適切ですが、すぐに予約が取れないこともあるので、かかりつけ医があればそちらも選択肢になります。休職や配置転換の希望に診断書が必要になることもありますし、医療機関の受診は後々の選択肢の幅を広げることにつながります。

診断や薬が必要ない場合、あるいは「気持ちの整理をしたい」「自分の考え方や性格の特徴について考えたい」という場合には心理カウンセリングも選択肢になります。状況によっては医療とカウンセリングの併用がより効果的なことも少なくないです。

相談時に伝える順番

いざ相談をすることになった時、何をどう話すか迷ってしまうこともあると思います。そういう時は以下を参考にしてみると話しやすくなるかもしれません。

①今一番困っていること
②いつから続いているか
③困りごとに関する具体的なエピソード
④心身に起こっている変化(サイン)
⑤対処するために試してみたこと
⑥今後どうしていきたいか(休職する、業務を続けるなど)

相談をすると言っても理路整然と話をしなければいけないわけではないですし、相手が専門職の立場であれば、整理しつつ話を進めてくれると思いますので、どう話すかをそこまで気にしなくても大丈夫だと思います。

あまり考えすぎると言葉が出てこなくなってしまうと思いますし、思い浮かんだことをそのまま話すことで得られる気づきもあるかもしれません。相談の際はあまり気負わずとりあえず話をしてみようくらいの気持ちでいいのではないかと思います。

異動・休職・転職をどう選ぶか

仕事でつらい状況が続くと「この職場を離れるべきかどうか」という考えが思い浮かぶようになります。離れ方は異動・休職・転職といくつかありますが、疲弊した状態では判断をすることが難しい問題でもあります。ここで選択肢ごとの特徴について考えてみましょう。

前提として心身の状態が最悪なタイミングでは自分だけで判断をしない方が無難です。心理的にも身体的にも悪化した状態は視野を狭めてしまいます。「もうこれしかない」と感じている時は選択肢が見えなくなっていると思った方がいいと思います。そういう時は休養や受診で少し時間を置くことも重要です。

他の誰かがどうしたらいいか決められるわけではありませんが、少なくとも相談をすれば選択肢が見つかる可能性はありますし、それについて一緒に考えることもできると思います。「これしかない」と感じている時ほど人に話すことは大事だと思います。

異動で解決しやすいケース

異動が有効に働くケースは、つらさの原因が特定の相手や特定の部署に限定されている場合です。たとえば、勤めている部署に出勤することは苦労があるが、研修や出張などで別の場所へ行くことは苦も無くできる場合などが該当します。

上司や同僚が変われば働きやすくなる見込みがある、仕事そのものにはやりがいを感じている、会社の制度や理念には賛同できるなど、こうした条件が揃えば部署を移ることによって働きやすくなる可能性は高いと思います。

ただ、会社にもよりますが、たいていの場合、異動が行われる時期は決まっているので、そのタイミングまで待つことができるかどうか、自分の状態への見立てをしておくことが重要です。

休職を考えた方がいいケース

休職は働く人が何らかの事情によって働くことができなくなってしまった際に、回復する時間を確保するための制度です。

心身が疲弊して動きたくても動けない状態になってしまった場合、環境を変えたとしても回復していくことが難しい状態になっています。このようなケースでは一度仕事から完全に離れる時間を作って自己治癒力が整うのを待つことが必要になります。

会社の規約によりますが、休職の判断には診断書が必要になることが多いため、受診・通院しているとスムーズに進みやすいです。休職期間、給与、傷病手当などは会社、加入している健康保険によって異なるので、確認しておくと判断する際に役立つと思います。

物理的に仕事から離れたとしても心理的には離れられないこともありますが、その中でも休息の時間を確保して心身共に安定させることが必要です。この場合の休息とは、家でずっと寝ているということではなく、できるだけ心身をリラックスさせた状態で過ごすということです。まずは生活状況を安定させ、復職について考えるのはその後で十分です。

転職を考えるべきケース

転職が妥当な選択肢になってくるのは、会社の構造そのものが問題で、いくら問題に取り組んでも変えようのない場合です。

ハラスメントの相談をしても全く対応されない、あるいは相談をしたことで不利益を受けた、長時間労働や理不尽な評価が当たり前になっていて誰も疑問に思わない、異動をしたとしても同じ問題が起こる可能性が高い、休職をしたのに毎日のように連絡がくるなど、特定の個人・部署が問題というよりも会社自体に問題がある場合、その問題を個人が動くことで解決することはほぼ不可能になります。

働く環境がそのような状況であれば転職は合理的な選択になります。働きながら転職活動をするか、辞めてから就職活動をするかはケースバイケースですが、余裕のない状態で活動をしていると焦って決めようとしてしまうこともあるので、休みをとって考える時間を確保することも検討した方がいいと思います。

次の職場で同じ悩みを避ける見極め方

転職した先の会社がどんな職場なのかは入ってみないとわからない部分は多いですが、事前に確認できるポイントもあります。

①面接で聞くこと
既に働いている人の状況や退職理由などを確認できるとどんな職場か判断する材料になると思います。新卒で働いている人が多いのか中途入社が多いのか、退職理由はどんなことなのか。答えづらい質問ではありますが、答え方にもその会社の特色が現れると思います。また、平均の勤続年数や残業実績、評価の仕組みなども働いている人の状況を考えるための情報になります。

②求人票で見ること
求人票は業務内容や賃金などの労働条件に目が向きやすいですが、会社PR欄もその会社を知る上での情報になります。内容に具体性があり抽象的な内容に終始していないかなど、内容を確認しておくと判断に役立つこともあると思います。また、掲載終了した求人は非公開になることが多いので確認できないこともありますが、求人サイトなどを定期的に見ている場合には、同じ求人が繰り返し出ているかどうかも確認しておくといいと思います。繰り返されている場合は離職が多いということかもしれません。

③自分の対人パターンを振り返る
人間関係は関わる人同士の兼ね合いで決まるものですが、人それぞれ起こりやすいパターンがあります。断れず抱えやすい、確認せず自己判断で動きやすい、期待に応えようとしすぎるなど。こうしたパターンは一度定まってしまうと変化させることが難しくなります。転職のメリットのひとつはパターンが定まっていない状態で人間関係をつくれることです。自分のはまってしまいやすいパターンを知っておくことで、そのパターンを回避できる可能性は高くなります。

よくある質問(FAQ)

仕事の人間関係がつらいのは甘えですか?

甘えではないです。職場の人間関係でストレスを抱えることは調査にもあるように一般的なことです。ただ、つらさの感じ方には、立場や業務量、健康状態など複数の要因が複雑に絡み合っており、個別性の要素が強く他の人とは比べられないものです。甘えかどうか考えることもまたストレスになってしまうので、まずは自分が置かれた状況の事実関係を整理してみるといいと思います。

職場の人間関係がつらいとき、まず何をすればいいですか?

まずやってみることはつらさの発生源を書き出して分けてみることです。誰と、どんな場面で、どのようなやりとりに負担を感じているのか整理します。その上で、やりとりの方法や頻度を変えたり、第三者の同席を求めたりしながら対処法を試していきます。あわせて食事や睡眠状態のチェックも重要です。心身が疲れてしまっている状態では対処法の効果も薄れてしまうかもしれません。

人間関係の悩みで会社を辞めるのはおかしいですか?

おかしくないです。人間関係は働く環境の一部であり、業務内容や給与と同じく、働き続けられるかどうかを左右する条件のひとつです。条件があまりにひどい場合は辞めることは当然選択肢になります。ただ、辞める前に異動や休職で改善する余地はあるか、今の自分の状態は判断ができる状態かを検討することは大切です。心身の状態を回復させることを優先しても転職の選択肢がなくなるわけではありません。

眠れない・食欲がない・会社に行けないのは受診のサインですか?

はい、それらの兆候は受診を考える目安になります。不眠や食欲不振は回復する力の低下につながるため医療的なケアが必要です。その状態が二週間以上続いていたり特定の曜日や出社前に症状が出る場合は心療内科・精神科が適切ですが、身体症状が中心であれば内科でも問題ありません。早めに相談することでその後の状態も違ってくると思います。

異動・休職・転職はどう選べばいいですか?

つらさの原因が特定の相手や部署に限られるなら異動、心身に不調が出ている場合には休職、会社の構造自体に問題があり変化の見込みがないようであれば転職というのがおおまかな目安になります。ただ、体調が悪い場合には休みをとって多少とも回復してから判断した方がいいと思います。。決められない状態が続いていること自体が休養を必要としているサインであるかもしれません。

まとめ:仕事の人間関係がつらいなら、我慢より「整理と一歩」を

仕事における人間関係のつらさは性格や努力の問題ではなく、他者との相性、それぞれの立場、会社の構造などが絡み合って生じるものです。そのため一人で耐えるだけでは解決につながりにくい問題です。

このコラムの内容を改めて整理してみます。

まず、つらさの発生源を分けて書き出すこと。相性の問題なのか対処すべき問題なのか見極め、後者であれば記録を残し第三者に伝えられるよう準備しておくこと。心身が発するサインを見逃さずに、体調不良が続くようであれば医療機関へ相談すること。関係が悪化している相手との接点のあり方を変えて少しでも負担を軽減すること。異動・休職・転職といった大きな判断は体調の回復を待ってから行うこと。

一度に全てをやることはないですし、実際にそれは無理な話です。つらさが続くことは厳しいことではありますが、解決できる問題であってもやはりどうしても時間は必要になります。遠回りに感じられるかもしれませんが、状況を整理して自分ができることをひとつずつ積み上げていくことが解決に向かう道筋になるのではないかと思います。

この記事の著者

川上 義之

臨床心理士 / 公認心理師 ー 新宿四谷心理カウンセリングルーム(東京・四谷)

初めまして、臨床心理士・公認心理師の川上義之と申します。
明治学院大学心理学科卒業後、東京国際大学臨床心理学研究科に進学。
修了後は病院、福祉施設、学校などいくつかの職場での勤務経験があり、心理療法やデイケアの運営、生活支援などの業務を行っていました。
2019年に新宿四谷心理カウンセリングルームを開設、現在は相談室でのカウンセリングをメインに行っています。

「誰かに少し話を聞いてほしい」「自分の気持ちを整理したい」と思っても、カウンセリングには少しハードルを感じるかもしれません。具体的な悩みがまとまっていなくても大丈夫です。まずは今感じていることから、ゆっくりお聞かせください。